「模範解答丸写し」試験 問題の核心とその影響について解説

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小田原短期大学(神奈川県)の通信教育課程で、幼稚園教諭2種免許取得のための単位認定試験において、模範解答の丸写しが認められていたことが発覚したニュースが報道されました。今回はこの問題の核心とその影響について簡単にですが解説をしたいと思います。

1. 試験制度の不適切さ

・問題の背景: 2020年度から、小田原短期大学およびその系列専門学校(全国14校)では、単位取得に必要な「科目修得試験」で、教科書にあたる「学習の手引き」に記載された問題と同一の設問が出題され、模範解答が掲載された資料の持ち込みが許可されていました。これにより、学生は模範解答をそのまま書き写すだけで高得点(ほぼ全員が100点)を取得でき、十分な知識や理解を伴わずに単位を取得できたとされています。

・問題点

  • 試験の公正性欠如: 試験は知識や能力を評価するためのものですが、模範解答の丸写しを許可することは、実質的に試験の意味を失わせます。これは「実質的なカンニング」とも指摘されており、教育機関としての評価の公平性が損なわれています。
  • 資格の形骸化: 幼稚園教諭免許は国家資格であり、子どもの教育や安全に直接関わる重要な役割を担います。十分な知識やスキルを持たない者が免許を取得することで、資格の信頼性が低下し、現場での教育の質に影響を及ぼす恐れがあります。

2. 教育の質と子どもの安全への影響

現場での能力不足: 内部告発した元教員によると、模範解答を写すだけで免許を取得した学生の中には、「自分の名前と〇×しか書けない」ようなレベルの者も含まれており、現場の幼稚園から「仕事が全くできない」との苦情が寄せられていたとされます。

問題点

  • 教育の質の低下: 幼稚園教諭は子どもたちの発達や学習を支える専門職であり、適切な知識や実践力が求められます。こうした不適切な試験制度により、能力不足の教諭が現場に送り出されることは、教育の質や子どもの安全に直結する問題です。
  • 社会的信頼の喪失: 教育機関が不適切な方法で資格を付与することで、幼稚園教諭全体への信頼が揺らぎ、保護者や社会に対する責任が問われます。Xの投稿でも、「子供の安全を売っている」「児童虐待に繋がる」といった強い批判が見られます。

3. 大学の運営と動機

背景: 小田原短期大学では毎年1800~2000人が卒業し、その大半が幼稚園教諭2種免許を取得しています。系列専門学校を含め、2020~2024年度で2600人以上がこの方法で免許を取得した可能性があります。

問題点

  • 学生確保のための動機: 一部の声では、こうした試験制度が「学生確保や実績作り」のために意図的に緩和された可能性が指摘されています。入学者の増加や卒業率向上を優先するあまり、試験の厳格さが犠牲になった可能性があります。
  • 大学の裁量の濫用: 単位認定の方法は大学や教員に一定の裁量が認められていますが、模範解答の丸写しを容認することは、教育機関としての責任を果たしていないと批判されています。文部科学省もこの点を「不適切」と判断し、2025年2月に調査を開始、3月に改善を求める行政指導を行いました。
画像元:北海道新聞

4. 内部告発とその扱い

背景: 札幌こども専門学校の元教員(40代男性)がこの問題を報道機関に内部告発しましたが、「重要かつ秘密の内部資料を無許可で持ち出し流出させた」として懲戒解雇されました。この男性は解雇無効を求めて札幌地裁に仮処分を申し立てる方針です。

問題点

  • 内部告発者の保護不足: 問題を公にした教員が報復的に解雇されたことは、内部告発者の保護や組織の透明性に問題があることを示します。教育機関としての倫理的な対応が求められます。
  • 問題の隠蔽体質: 学校法人が取材に対し「コメントできない」と回答している点や、告発者を解雇したことは、問題解決への積極的な姿勢が欠けているとの批判を招いています。

5. システム上の問題と他分野への影響

背景: 藤女子大学の吾田富士子教授(保育学)は、「書き写しによる資格取得は、幼稚園教諭だけでなく、どの専門分野の養成校でも起こりうる」と指摘しています。

問題点

  • 試験制度の構造的欠陥: 資料持ち込みを許可する試験は他の大学でも一般的ですが、模範解答の丸写しを容認する運用は法の想定外であり、試験制度全体の見直しが必要とされています。
  • 他の資格への波及懸念: この問題は幼稚園教諭免許に限らず、他の国家資格や教育機関の試験制度にも同様のリスクがあることを示唆しており、広く高等教育の評価システムの信頼性が問われています。
動画元:HTB北海道ニュース

対応と今後の課題

大学の対応: 小田原短期大学は2025年6月19日に、模範解答の持ち込み禁止や同一問題の出題廃止などの改善策を発表しました。

文部科学省の対応: 文科省は2025年2月下旬に調査を開始し、3月に口頭で行政指導を行いましたが、法的規制が不足しているため、抜本的な解決にはさらなる制度改正が必要です。

今後の課題

  • 免許の再評価: 不適切な試験で取得された免許の有効性について、遡及的な取り消しや再試験の議論が一部で出ていますが、実現可能性は不明です。
  • 教育の質の確保: 教員養成課程の厳格化や、教育実習の強化など、実践力や知識を確実に評価する仕組みの構築が求められます。
  • 社会への説明責任: 大学や文科省は、保護者や社会に対してこの問題の影響と再発防止策を明確に説明する責任があります。

結論

この問題の核心は、試験制度の不適切な運用が、資格の信頼性と教育の質を損ない、子どもの安全や教育に悪影響を及ぼす可能性にあることです。具体的には、模範解答の丸写しを容認した試験制度大学の学生確保優先の動機内部告発者の不当な扱い、そして試験制度全体の構造的欠陥が問題の根底にあります。この事件は、単なる一大学の不祥事にとどまらず、教育機関全体の信頼性や国家資格の意義を問うものであり、早急な制度改革と透明な対応が求められます。